ネパール最高裁判所は、トランスジェンダー女性であるルクシャナ・カパリ(Rukshana Kapali)さんに対し、医師の診断を受けることなく、すべての書類(戸籍含む)で女性としての法律上の性別認定を受けるべきとの判断を示しました。ネパールの裁判所はこれまでも性的指向(セクシャルオリエンテーション)と性自認(ジェンダーアイデンティティ)について進歩的な判断を積み上げており、LGBTの権利の分野で同国に国際的に高い評価をもたらしてきました。この流れに、さらに今回の判断が加わりました。
2007年の最高裁判所の判断に従い、ネパール当局は10年以上にわたり、本人の自己認識に基づいて性別を「その他」または「第三の性」と記載した書類を一部発行してきました。この最高裁判断にもかかわらず、中央政府がはっきりとした方針を示していないことから問題が生じています。現在のネパールで、性別表示を「女性」または「男性」に変更したいと望むトランスの人びとは、手術を受けることを強制されることが多く、そのために海外渡航をする必要があります。それから国内で医師の診断を受けなければならず、ここで術後の性器への侵襲的な検査が行われています。性別表記が「その他」である書類を取得しようとする人びとでさえ、こうした屈辱的で必要性のない医師の診断を受けなければならないのです。
元ネパール国会議員でLGBTの権利のアドボカシーで活動するスニル・バブ・パント氏らの専門家グループにより2006年に起草・署名されたジョグジャカルタ原則では、各人が自ら認識した性的指向と性自認が「その個人の人格に不可欠なもの」であり、アイデンティティ、自己決定権、尊厳、自由の最も基本的な側面の一つであるとうたわれています。さらに、性自認には「自由な同意によりなされた場合には、医学的、外科的、およびその他の方法による身体的外見や機能の変更」も含まれるとも明記されています。一連の原則は、2007年のネパール最高裁命令の根拠であり、カパリさんが手にした今回の勝訴でも引用されています。
大学で法学を学ぶトランス女性のカパリさんは2021年以降、人権に基づく法的な性別認定を求めて、ネパール政府を相手取り、50回を超える訴訟を起こしています。今回の判断はトランスジェンダーの権利に関するひとつの判例とはなりますが、裁判所の判断はカパリさんにしか適用されません。他の人びとがみずからの性自認に従った性別の法的認定を望むときには裁判所の判断を仰がなければならないのです。
よりよい解決は、中央政府が明確な政策を定めることです。ネパール政府は、医師などによる診断を受けずに、人びとが公的文書でのみずからの性別を自分で指定できることを認めるルールを定めることで、あらゆる人が利用できる制度をつくることができますし、そうすべきなのです。