- モルディブ政府の埋め立てプロジェクトは環境保護法を無視またはそれに抵触し、かつ、洪水をはじめとする島しょコミュニティの被害リスクを増大させる。
- 政府は、環境アセスメントの緩和要件を受け入れや、開発プロジェクトの継続的な監視のためのリソースを提供することを怠った。
- 気候変動に関して援助を行っている国際的ドナーは、埋め立てほかの開発プロジェクトが及ぼす潜在的な危害をしっかりと評価し、適切な緩和策を講じることを求めるべきだ。
(ブリュッセル)-モルディブ政府の埋め立てプロジェクトは環境保護法を無視またはそれに抵触し、かつ、洪水をはじめとする島しょコミュニティの被害リスクを増大させる、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書で述べた。政府の埋め立てプロジェクトはしばしば、拙速に進められることが多く、適切な環境悪影響の緩和および監視に欠け、市民との適切な協議もない。新たに選出されたモハメド・ムイズ大統領は、人権と環境保護を軸とした政策を保証すべきだ。
新たに発表された報告書「We Still Haven’t Recovered’: Local Communities Harmed by Reclamation Projects in the Maldives」(全20頁)は、モルディブ政府がいかに環境アセスメントの緩和要件に留意せず、埋め立てに先立って地元コミュニティと協議することを怠ってきたかをまとめた。北のクルフドゥフシ(Kulhudhuffushi)島と南のアッドゥ(Addu)環礁における開発プロジェクトの継続的な監視のためのリソースの提供もしなかった。これにより、気象パターンの変化や海面上昇、海洋生物の多様性の喪失、海岸侵食、洪水の増加などの影響で、すでに危険にさらされていた住民にさらなる被害が及んでいる。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局アソシエイト・ディレクターのパトリシア・ゴスマンは、「モルディブが気候変動に適応できるよう国際社会はさらに努力する必要がある。しかし、だからといってモルディブが自国の環境法や国際的義務を無視してもよいという道理はない」と指摘する。「モルディブ政府は、埋め立てやその他の開発政策が、危険にさらされている島しょコミュニティの生活の権利や安全を、決して脅かすことのないようにすべきだ。」
モルディブ政府はこうした被害を防ぐためにいくつかの法律を定めてはいるが、その執行は緩慢だ。規制が十分ではない開発により島々の天然資源が損なわれ、地元コミュニティは淡水、公有地、果樹など天然資源へのアクセスを奪われてきた。大規模な埋め立ては、環礁の底で嵐や洪水、津波、海面上昇のインパクトを抑制する自然の防護壁である繊細なサンゴ礁にダメージを与える。
クルフドゥフシ島では、空港建設のために政府が環境規制当局の方針を制して島のマングローブ林の70 パーセントを埋め立てた。その喪失で、すでに危機の瀬戸際にあった地元コミュニティが被害を受けた。生計の手段がなくなった人びとも多く、住民が貧困に追い込まれている。クルフドゥフシ島の、ある小規模ビジネス経営者の女性は、新空港のために湿地が破壊された際に、彼女たちが受けた経済的悪影響について語った。「私たちはバナナを栽培していましたが、開発で木々がなぎ倒されてしまいました。今ではバナナを輸入しなければなりません。私たちにとって開発とは、誰も買えない輸入果物を意味するのです。」
モルディブにとって、気候変動は差し迫った存亡の脅威だ。島々の80パーセントが海抜1メートル未満で、その多くが深刻な海岸侵食や海水侵入などの気候変動の影響を受けている。モルディブは、気候問題に関する国際フォーラムで声をあげ続けてきた。その一方で、観光やその他のインフラ開発プロジェクトを追求するあまり、主要な緩和策を軽視または回避するなど、国内政策は、気候変動における世界的な行動の呼びかけに相反するものとなっている。
政府は気候変動への取り組みにコミットしており、適応のための財政支援を求めている。気候変動で資金援助する国や機関は、これを継続する必要がある一方で、モルディブ政府に対し、環境保護法の執行、環境保護庁の独立した監督体制や島しょコミュニティとの協議の確保を求めるべきだ。
前出のゴスマンは、「モルディブ新政府には、生計と安全な環境への脅威が高まっている状況を反転させるため、速やかに行動を起こす必要がある」と述べる。「ムイズ政権は、影響を受けるコミュニティの人びとの権利を尊重し、さらなる環境悪化からモルディブを守る方法を採用すべきだ。」